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2階の会議室だった場所で、これからつくる

2階の会議室だった場所で、これからつくる

diary

1階から2階へ引っ越した。引っ越しといっても、トラックを手配するほどの距離ではない。階段をひとつ上がっただけだ。住所もほとんど変わらない。コンビニへ行く時間が、階段のぶん、たぶん二分ほど長くなったくらいだ。

 

それでも机や椅子を運び終えた部屋に立つと、ちゃんと新しい場所へ来た感じがする。ほとんど突貫工事みたいな引っ越しだった。急なお願いにもかかわらず、机を持ち上げ、階段を何度も往復してくれた友人たちには、本当に感謝している。ひとりだったら、まだ1階で机を眺めながら途方に暮れていたと思う。ここは以前役場の会議室だった。会議室という場所には少し不思議なところがある。何かを決めるために人が集まるのに、話せば話すほど何を決めたかったのかわからなくなることがある。そして「一度持ち帰ります」という言葉だけが誰よりも早く部屋を出ていく。そんな場所だった部屋をこれからは疑問や違和感を持ち寄り、解決の糸口を見つける場所にしたいと思っている。

AIをみんなが使うようになった。調べることも、まとめることも、何かの形をつくることも、以前よりずっと速くなった。便利になった。でも便利になったぶん少し面倒にもなった。人へ仕事を頼むときの言葉がAIへ指示を投げるときのように少しずつ乱雑になっている気がする。期待値も高い。つくる時間は短くなっても確かめる時間は増える。省かれたはずの手間は消えず別の誰かのところへ移動する。少なくとも自分にはそう見える。AIは多くのことを助けてくれる。でも何を任せ、何を自分で考え、最後に誰が責任を持つのか。その境目は以前より曖昧になった。立派っぽい仕事の塊でも決着できないものは蟠りになる。判断と責任は個人へ戻ってくる。便利な道具が増えたはずなのに、ひとりで抱えるものも増えたような気がする。それは寂しいことだよ。

平日はこれまでどおりの仕事をする。考えて、つくって、直して、また考える。週末には本業とは少し違う仕事や、まだ仕事と呼べないような試みをしたい。副業でも実験でもいい。役に立つかどうかを最初から求めすぎると、新しいものはだいたい黙ってしまう。だからすぐには説明できないものも、とりあえず机の上に置いておける場所でありたい。こういう作業場をずっと前から夢見ていた。ただ夢見ていた頃の自分は、実現までにこんなに時間がかかるとは思っていなかった。まして、その作業場がかつての役場の会議室になるとも思っていなかった。コロナ禍が始まり世の中の時間が一度止まった。その間にも時間は進んでいく。こんなことはたぶん誰でも言う。今さら書いている自分に少し吐きそうにもなる。

それでも気づけば数年が過ぎて仲のよかった友人も何人かいなくなった。もう会えないということは、こちらの近況を相手が知らないままになることでもある。この部屋を見せたかったと思う。たぶん「ようやくかよ」と笑われる。そう言われたら、こっちも笑えた気がする。遅くなった。でも遅くなったから置けるものもある。ここまでの失敗や、言えなかったことや、途中で諦めたこと。そういうものも全部、いったんこの部屋へ運び込んでみる。

まだ完璧ではない仕事部屋。めちゃくちゃおしゃれでもない。四方を囲む壁紙には、役場だった頃からの歴史とヤニが染み込んでいる。その壁に囲まれながら、デザインの仕事をする。これがいまの自分の現在地。佐藤可士和でもないけど嫌ではない。悪くもない。コードは絡まっているし、椅子の位置も定まらない。窓から入る光だけがずいぶん前からここを知っているような顔をしている。それでいい。

場所は、完成してから始まるのではなく、使いながら少しずつ場所になっていくのだろう。1階から2階へ。高さにすれば、ほんの数メートル。それでも見える景色は少し変わった。昨日までと同じ町の上に知らなかった空が少しだけ増えた。平日は仕事をする。週末はまだ名前のないものをつくる。疑問を持ち込み、手を動かし、帰る頃には、答えのようなものをひとつ持っている。そんな場所にしていきたい。音量は小さくても、音楽も止めずだらだらではあるけどまた始めていきたい。

最後に。移転にあわせて差し入れを届けてくださったクライアントのみなさん、本当にありがとうございました。

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