アートディレクター／デザイナーのラフスケッチ　一流クリエーターの着想と具現化の実例250｜つくることの先にある、ひかりのようなもの

この本には、185人のデザイナーが登場していて、それぞれのページに「仕事の種みたいなもの」が詰まっています。ラフスケッチ、メモ、カンプ、モックアップ。普段は表に出ない途中の形が紹介されているのが特徴です。完成よりも「どう考えたか」や「どんな視点で見ていたか」そういったプロセスに焦点をあてた構成が、とても魅力的だなと感じました。たとえるなら、情報商材などでいうLINE登録の先にあるお宝のような、普段は見られない部分に触れられる感覚です。それだけに、ページをめくるたびに深く見入ってしまう。どのアイデアにも、その人の思考の流れや温度がしっかり刻まれていて、とても見応えのある内容になっています。

私自身も、まだ頭の中で迷っている途中のアイデアを、こうして誰かに見てもらえることが、新鮮で、うれしい体験でした。完成したものではなく、考えている途中を共有するのは、やっぱり少し恥ずかしさもあります（笑）。というのも、私はラフを丁寧に描くタイプではなくて、頭の中にある形をざっと描いて、その勢いのまま制作に入ってしまうことが多いんです。あとで見返すと、線も荒いし、メモも自分にしか読めない（笑）
この状態で載るのか…？　と正直少し不安でした。

それでも、思えばそういうざざっと描く瞬間こそ、自分にとっての出発点だった気がします。アイデアの核みたいなものは、綺麗に整ったスケッチよりも、手が動いている途中の勢いや呼吸の中にある。その勢いがそのまま本に載ることは、どこか照れくさくもあり、でもちょっと誇らしい気持ちにもなりました。ああ、あのとき迷いながら描いた線も、ちゃんとひとつの記録になっているんだなと思うと、少し背中を押されたような感覚がありました。完成ではなく過程が残るというのは、思っていたよりずっとあたたかいことなのかもしれません。185人、250のアイデア。ページをめくると、どれも鋭い視点ばかり。デザインの起点を読むことができる一冊。青森という場所で、自分なりのペースで仕事を続けてきた時間がこうして誌面の上に残るのは、本当にありがたいことだと思います。

今回あらためて感じたのは、自分の仕事は自分ひとりでできているわけじゃないということ。カネイリのみなさんをはじめ、日々一緒に動いてくれるスタッフの存在があって、ようやく形になっているんだと思います。この本は、自分の名前を出すというより、これまで関わってくれた人たちと一緒に並んでいるそんな感覚に近いです。

もしこの本を手に取る機会があれば、デザインという仕事の裏側や、人の考える力の深さに、きっといろんな発見があると思います。どのページにも、自分を動かすプロンプトのような図や線があって、「なぜこの形にしたのか」「どうしてこの余白を選んだのか」その思考の跡が、まるで会話のように静かに並んでいます。完成されたデザインを見ることは多いけれど、その手前にある考えている途中を見られる機会はなかなかありません。だからこそ、この本を読むと、デザインが生まれていく時間の中にある迷い、発見、直感、修正。そのすべてが愛おしく感じられます。どの線も、誰かの中で一度は言葉になり、誰かの中で形へと変わっていったもの。それをどう言語化し、どう形にしていくのか。その過程が丁寧に見えてくる。ページをめくるたびに、「デザインって本当に、生きものみたいだな」と思います。状況や人、時代によって姿を変えながら、それでも伝えたいという気持ちだけは変わらない。ラフの線の中には、完成よりも強いエネルギーがあって、そこにこそ、デザインの面白さが静かに息づいている。
あらためて、そんなことを感じさせてくれる一冊です。

アートディレクター／デザイナーのラフスケッチ　一流クリエーターの着想と具現化の実例250
発売日：2025年10月28日
出版社：MdN（エムディエヌコーポレーション）

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